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● ハッピー☆チャイルド --- ためらい。まだ無色 ●

「私味噌。」
「俺豚骨で〜。」
わいわいと騒がしい店内。カウンターに隣並んで座っている俺とサクラ。

いつもならセイやアイがいるはずの帰り道は、
文化祭でイベント係というめんどくさいものに任命された俺達のせいで、別々のものになっていた。
まぁ、セイ的には万々歳なんやろうけど。

「うわ、色からして濃い…。」
「しゃあないやん、豚骨やもん。」

そして来たラーメンを啜る。
文化祭だからこそできるこのラーメン屋デート。文化祭万歳。

しかし俺達の間にこれといって話題はない。
無言でラーメンを頬張るだけだ。
俺は別にかまわん。
サクラの側にいられるだけ幸せやから、でも彼女はどうだろう。
サクラはわりかし自分の事は話さない。
いつもアイの事ばかり。

まぁ、二人の仲を知ってれば当然の事なんやろうけど…サクラを好きな俺としては…まぁ面白くないわな。
別に今更アイをどうにかしようとか考えてないけど、やっぱり俺は悔しかったんや。
サクラの笑顔取り戻したんが俺やないって事が。

だから言ってしまった。口をついて出た言葉を。

「しばらく、別々に帰らへん?」

ラーメン屋からの帰り道、俺が発した言葉にサクラは驚きもしなかったし、悲しそうな顔もしなかった。
「…わかった。」
ただ、一言。無感情に返事した。

帰り道、彼女と別れる。
俺は振り向いた。
彼女は振り向かない。振り向くはずもない。

何しとんのやろ、俺。
多分はたから見たら、ただの馬鹿。
なんでわざわざ彼女の傷つくような事をしているのだろう。



それから一週間、俺とサクラはあまり話さなくなった。
別に今までと日常は変わらない。お昼も一緒に食べるし、教室移動も一緒にする。
だけど、会話は少ない。
普段も特に多いというわけではないが、俺が気まずさを感じ、それをサクラも感じているんやろう。
俺と目を合わせようとしない。
サクラはいつもそうだった。
相手が自分の事で何かあると知っている時は、近付こうとしない。

その気遣いが申し訳なくて、でも俺はサクラに素直になれないでいた。
本当ならもう俺が笑って謝っているんやろう…。
でも、今回はそれができない。

謝る…とは、何か違う気がした。
サクラが何も言ってこないのが悔しかった。
何という悪循環。

いいんや、今は文化祭という校内お祭り前のワクワク感に、俺が若干イラついとるだけやろ。
全て終わったら、素直に謝れる。
あと少しの我慢や。
全て終われば…。


「コンちゃん。」

ざわざわと、教室がざわつく昼休み。
アイが俺に話しかけてきた。まぁ、何の話かは大体予想付くけどな。

「どうして、最近サクラちゃんを避けてるの?」

首をちょん、とかしげたアイの目は、俺をじっと、ただ純粋に真っ直ぐに見つめていた。
いつもならそうは感じないのに、今はとても居心地が悪い。

「…俺、係りやから…話し合い行かんと。」

そう言って、席を立ち上がって逃げた。

彼女の前で何か取り繕おうとする自分が、酷く情けなく思えて。
それに、係りの為に呼ばれていたのは本当だ。

今、あの純粋な眼に自分を映せる自信がない。
きっと、あの瞳さえ濁らせてしまうだろう。
そんなことだけはしたくなかった。



アイから逃げて、俺が向かったのは、屋上だった。
いつもセイやアイとお昼ご飯を食べる場所。
そう、サクラも。

俺にとってはいつもの風景で、当たり前で。
彼女の当たり前になったことがとても嬉しくて。
俺は浮かれていた。

今は自分がどうしたらいいのかすらわからない。
近付いた分、怖くなる。
俺のたった一言が、この関係を壊してしまうのではないかと。
なるほど、セイが戦っていたのはこの感情か、と今更ながらに苦笑する。

「こんな所でサボり?」

後ろで声がした。
振り向くと、セイが腕を組んで立っていた。

「…お前に言われたないわ。」
俺が言うとセイは苦笑する。
「確かに。」
「何しとん?」
俺が聞くと、セイはきょとんと俺を見た。
「それはこっちの台詞だよ。文化祭係りの先生が、呼んだのに中々来ないって呼びに来た。
だからこの僕がわざわざ呼びに来てあげたんだよ。」
「…それはどうも。」
この男は…もうちょっと可愛い言い方ができないものか。
まぁ、そんな事が出来るくらい素直やったら、あんなに悩まんのか。

「後、珍しく落ち込んでるから様子見に来た。」

驚いてセイを見ると、彼は至極楽しそうに笑った。
「何悩んでんのかは大体想像がつくけど、悩むだけ無駄なんじゃない?」
彼はドアの方へと歩いた。扉を開けて俺を見る。
「お前の心の中は、いつまでも変わんないんだからさ。」
そして、振り返らずに扉を閉めた。

変わらない…確かにそうだ。
こんなに、サクラに気を使わせてまでいじけている俺の心は、やっぱりサクラの事しか考えていない。
サクラ馬鹿…と以前セイに言われた事を思い出した。

苦笑した俺の目の前の扉がキィ、と開いた。
顔を出したのは、アイだった。

「…コンちゃん。」
先ほどイラついていた俺に、アイは申し訳なさそうに声をかける。
俺は罪悪感に胸が締め付けられた。
何八つ当たりしとんのやろ、情けない…。

「さっきは…ごめんな…。」
俺の言葉にアイの顔は、ほっと安心した顔になった。
そして、勢いよく首を横に振る。
「ううん、私こそごめんね。」
コンちゃんの気持ちわかってなかったね、とアイは言いながら俺の側へ来た。
俺はその真っ直ぐな瞳に見つめられ、肩を落とした。

「あかん、俺…アイにヤキモチ妬いてもた…かっこわる…。」
ぽろっとこぼした一言に、アイは目をぱちくりさせた。
「格好悪くなんてないよ。コンちゃんは、カッコイイよ。」
断言するアイに、どこがや…と首を傾げた。

「好きを貫けるって、素敵な事だよ。」

はっきりと、真っ直ぐ俺を見つめてアイは言った。
どうしてこの俺よりもずっと小さい少女は、俺が欲しいと思う言葉をくれるのだろう。
会った時から不思議に思っていた、そして敵わないとも。
「アイは…すごいな…」
「え?」
アイは首を傾げる。
その眼は、本当に綺麗だ。
「何でもない、ありがとうな。」

俺がそう言うと、アイはにっこり微笑んだ。
「サクラちゃんも、コンちゃんが好きだよ。」
俺はアイの小さい頭を撫でた。
「…そうだと…俺は嬉しいな…。」
「私も、コンちゃんが好きだよ。」
アイの魔法の言葉は、俺のとげとげした心を、一瞬で丸くしていた。
やっと、心から微笑む事が出来た。
「おおきに。」



もう肌寒くなってきた風が俺を包んだ。
アイが去った扉を見つめ、身震いして我に返る。

そうか、俺は何を悩んでたんや。
彼女が俺だけを見てくれないなんて、いつものことなのに。

俺はあの時に誓ったじゃないか。
彼女がこの先もしも辛い事が起こった時に、今度こそ守れる位置にいようと。
今その願いは叶っているじゃないか。

俺はいつの間にか、欲張りになってたんやなぁ。
『当たり前』の中に入れたから、『特別』な位置が欲しくなったなんて。

俺はサクラとどうなりたいわけやない。
自分が護る存在であれば、それでいいんや。

「…コン。」

先ほどアイが出て行った扉が開いて、サクラが覗いた。
とても心配な顔。
あぁ…俺は何しとんや。
彼女にこんな顔をさせるためにここにいるわけじゃないのに。

「…ごめんな。」
「?」

とても小さく呟いた声は、彼女には届かない。

「今日、一緒に帰らへん?」

それでもいい、届かなくったってかまわない。
俺は今、彼女の側に、目の前に立つことができるんやから。
それ以上の幸せは、ないんやから。
あの時の自分にも、今の自分にも全く自信はないけど。惚れた女一人護るくらいの覚悟はできとる。
せやからいつでも俺の胸、飛び込んで来てええんよ?
…まぁこんなこと本人には言えませんが…。

今は、君のそのほっとした顔だけで十分。


「じゃあ、今日は…私も豚骨ね。」

扉の方に向いた彼女の言葉に、俺はぽかんとする。
きっと今すごくアホな顔をしている。

「え?それって…」
俺の呟きにサクラは振り返る。
黒い綺麗な髪が、後を追った。
「…ラーメン、食べに行くんでしょ?」

そう言って少し照れながら扉を閉めた君。
あぁ、これだからやめられない。


俺は熱くなった顔をばしっと叩くと、彼女の後を追った。


できれば長く、この時間が続きますように…。

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